空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
posted with amazlet at 08.08.18
北村 薫
東京創元社
売り上げランキング: 45192
東京創元社
売り上げランキング: 45192
■北村薫
学生時代に先輩から薦められて手にとった北村薫はたちまちお気に入りの作家になった、その読み初めの本書は折にふれ読み返しているがそのたびに「敵わないなぁあ」と大きく心中ため息をつくことになる。
今回も何気なく本棚から引っ張り出して寝転がり、扇風機の風を受けてページを開いたのだがやっぱりそうだった。話のスジがどうこう、ミステリーとしてどうこう以前にこの方の博識ぶりに右ストレート左ストレート、ジャブジャブジャブ、というカタチで打ちのめされてわたしはいつもリングに両手をつく。
「まいりましたぁ」
「勉強し直してまいりますぅう」
と、なるのである。
いったいいつになったらせめて立ったまま応戦できるようになるのだろうか。
*
落語を愛し古典文学に幼い頃から馴染んでいて文学部で日本文学/国文学を専攻しているがアナトール・フランスやアルベール・ティボーデからすらりと引用できるような学生さん、それが本書をはじまりとする”円紫師匠と私”シリーズの主人公、”私”という人物だ。
このデビュー作で殺人事件が起こらない、だけどしっかり「本格ミステリ」な作品群をものした北村薫がたちまちミステリー界の寵児となったことはいうまでもない。「日常の謎」といえば今では他にも書くひとはいるけれどもそのジャンルを開拓し皆をアッといわせたのはやはりこの方だろう。
主人公や円紫師匠の性格がとても良く、著者のあたたかな視線を感じ、爽やかで気持ちのいい作風である――というのが一般的な北村薫作品への評であったし、わたしも少なくとも初読みのときはそう思った(と思う)。
しかし以前読み返したときにも思ったのだが例えば本書で扱われる作品たちの多くは人間の「負」の部分を書いているのであり、決してにこにこ笑って読める話ではない。
「なんとなくぼんやり記憶にあったのよりも、随分毒気があったんだな」
いつだったか読み返したときそう思い、以来、読み返すたびにその意を強くした。
近年の『盤上の敵』などを読んだときにその「毒」に戸惑ったことを覚えているが、しかし考えてみればその視線の鋭さゆえに見えてしまう人間の弱い面というものはこうしてデビュー作から描かれていたのだ。生真面目な女学生のユーモラスな語り口というオブラートにかぶせて、しっかりと、鮮やかに。
もちろん読んで不愉快になるような作品というわけではなくて、事件を解く円紫師匠のひととしての器の大きさ、その目のやさしさに触れるにつけあたたかい気持ちをいただけたような気がするし、”私”の若く健全な視点には背筋がしゃん、とするような気持ちになる。
主人公が学生なので自然、学生生活が描かれるが、個人的に学生のときに出会ったということもあり懐かしいような、甘酸っぱい思いが蘇るシリーズでもある。
書き手の夢がこの主人公には反映されすぎていて、それがリアルな女学生としてどうか、とい議論は昔からあるが、まぁ、それは、ご愛嬌というものだろう。
なお、出会いという意味ではわたしはこの文庫シリーズで高野文子を知った。以来、大好きな漫画家さんのひとりである。寡作な漫画家さんだが著者のたっての依頼で実現したという裏話をどこかで読んだ。そういう意味でも北村先生にはおおいに感謝している。
和製ミステリー
|HINOKIasunaro| 20080818
■東野圭吾
『名探偵の掟』を読まれた方には是非こちらも読んでいただきたい。
1996年に長編で「文庫特別書き下ろし作品」として上梓された本書を読むと、著者の本格ミステリについての思いだけではなくミステリーというものに対する考え方、ひいては小説・出版社・読者に対する考え方までが非常によく伝わってくるからだ。『掟』はユーモアに徹して書かれていたので素直に笑っていればいいのだが『呪縛』はいろいろなことを考えちゃって、著者の思いなど忖度してしまって、そして最後の言葉に思わずしんみり、切なくなる。
ああ、やっぱり本格って良いよなあ、東野さんはミステリーを本当に愛してらっしゃるんだなあ、としみじみ思う。
図書館を訪れた推理小説家の「私」はいつのまにか別の世界の中に入れられてしまっていた。そこでの「私」の立場はなんと私立探偵、それも次々に事件を解決する名探偵で、市長から直々に事件の解決を依頼されてしまう。
だが、調査をはじめる彼の周りで次々に事件が起こる。それはいわゆる「本格推理」に登場するような状況だった。しかしこの世界では「本格推理」の概念が存在せず、皆が怪訝な顔をしているのだ――。
『掟』で描かれたものを『呪縛』で裏打ちしていくような感じなので、『掟』を未読でも読めないことはないけれどもやはり読んでたほうがベター。
東野圭吾の作品年表を見ていると非常に興味深い。1996年は、あの「犯人当て」というテーマに真っ向から挑戦した問題作『どちらかが彼女を殺した』も出版されているのだ。
この作家さんはなんだかちょっと斜に構えたような面があるというか、表面だけで読んでいると頬をはたかれるような斬り返しをしてくる感じがあるけれど、根本はやっぱりこういうスタンスなんだと信じたい。ま、そういう楽屋裏云々別にして純粋に小説として、エンタメとして面白いしねこの本。
それにしてもこの画像の帯の「本格推理に引導を渡す」には大いに疑問を呈したいところだ。
和製ミステリー
|HINOKIasunaro| 20080426
■東野圭吾
久々に読んでみたけどやっぱりすごく面白かった。
本格ミステリのお約束を取り上げ、からかったり揚げ足を取ったりして一見おちょくっている本書は、大人の本格ファンが持っている「ええ、そりゃ本格は子どもっぽいですよ、リアリズムを無視していますよ、”人間が描けてない”と言われたらそれを全部否定することは難しいかもしれません。――でも、好きなんだもん、面白いと思うんだもん、良いじゃないですかイイ年して本格が好きだって!」といういささか自虐と自嘲の入り混じった、複雑な心持ちをくすぐりまくってくれる良書である。
何故犯人はわざわざ密室なんぞ作るのか。
何故犯人が簡単に絞られてしまう雪山の別荘なんぞで殺人を犯すのか。
死にかけている被害者が複雑きわまるダイイングメッセージなぞ考え出すのはおかしくないか。
童謡になぞらえて殺人する意味がどれだけあるというんだ。
名探偵とか警察が現場にいる状況で何人死ぬまで止められないんだ。
ていうか警察がなんでそのへんの私立探偵に現場をあらされて黙っている。
だいたい一番怪しくないやつが犯人に決まっているんだ。
ご都合主義もいい加減にしたまえ!
――という具合に、まあ本格ミステリにおいて「それを言っちゃあおしまいよ」的なことを12の短篇で全部突っ込んでくれている。
これを笑わずに読めようか。
思わずうんうん、そうなんだよなー、そうなんだけど、そうこなくっちゃあ本格は面白くないんだよねー、とにやにやしてしまうことしきり、なのである。
1996年に単行本が出版された当時は『このミステリーがすごい!1997』でランキングの3位になるなどおおいに話題になったようだ。そして今もランキングなどをみても愛され続けていることがよくわかる。
社会派ミステリもハードボイルドも好きだけど、本格もやっぱり忘れたくないんだよ。
和製ミステリー
|HINOKIasunaro| 20080426
■恩田陸
これも出版されたのは'06年の秋のことで、気にはなりつつも保留していたもの、やはり気になるので取り寄せてみた。帯に「第20回山本周五郎賞受賞作」とある。長らく無冠の女王といわれていたけれども面白いひとは賞に関係なく面白いのだ。
恩田陸はいつもタイトルだけで充分に惹きつけられるものが多い。読んでみたい、いったいどんな話だろうと好奇心を掻き立てられるものが多いのだ。しかも挿画にセンスの良いものをもってこられるので是非入手したくなる。本書も、そんな一冊だった。
「中庭」と聞いただけでイマジネーションが広がるではないか。
たまに、タイトルが素晴らしくて、設定が素晴らしくて、前半は確かに素晴らしいのだが肝心の〆が、そりゃまああるレベルまでは達しているから悪くはないんだけれど、でももうちょっとだけ、何か、物足りないなあ……という例がないわけではない恩田さん、残念ながら全作品を読めてはいないのにはひとつは彼女が非常に多作であるということが大きいけれど、もうひとつにはそういう感想を参考にして尻込みしてしまった、というのがないわけでもない。
だから本書を読み始めるときもそういう危惧がないわけではなかった。
読み始め、同じエピソードが少しずつ変えられただけで何回も繰り返される手法になっていてちょっとしつこい気がしたのでこのままだったらどうしよう、と危ぶんだ。
だが最後まで読み終えた今、大きな声で言っておきたい。
それは、杞憂だ。
読み終えた私は今、とっても清々しい。満足である。素晴らしい作品だった。面白かったし、後味も良いし、ストーリーの完成度はとても高くて美しい(いかん、誉め殺しみたくなってきた)。
確かに本書には流れる涙も、感動の咽びもないし、身を凍らせるような意外性もない。
だから、そういう大きな感情の揺れだけを期待して本書に挑んだひとのなかには不満を訴えるひとがいるかも知れない。いやでも、そのひとはおそらく途中で読むことを放棄したひとなのではないか。
最後まで読めば、この作品で著者が何を描き出そうとしたかは明らかであり、ラストの高揚感には思わず拍手をしたくなる筈だからだ。
中庭で起こった不可解な突然の死。
容疑者はみんな女優。
どこまでがお芝居でどこからが地なのか。
どこまでが脚本でどこからが地の文なのか。
同著者『チョコレート・コスモス』を読んだときの面白さとはまた全然違うのだけれど、ああいう空気を思い出すというか、つくづく、恩田陸というひとはお芝居が好きなんだなという気はした。
あと、実は読む前にこの話を芥川の「藪の中」になぞらえるコメントを目にしていて、ちょっとそういう予想もしながら読んでいったのだが、「藪の中」よりはもう少しいろんなことを明らかにしてくれてあったので欲求不満にならずに済んだ。
それにしてもこの作品の初出はケータイ文庫だそうで、'03年5月〜'04年2月にかけて配信されたらしい。こんなややこしい、こんぐらがった話を携帯でちまちま読まされたら気の短い私なんぞは頭からケムリが出そうだ。
なお、著者初のエッセイである「『恐怖の報酬』日記」の中でこの作品について触れた場面があるので興味のあるかたはどうぞ。23ページ参照。「自分で書いていてなんだが、非常に複雑な話なのだ」「連載は終了したがあまりに複雑になってしまい、直すのがユウウツである」なんて書かれていて、実際実物を読み終えてみると非常にきっちり整えられているからどれくらい直されたのかなあ、実はそんなに直さなくてもわりと完璧だったのかもね、などとあれこれ考えるのも悪くない。
和製ミステリー
|HINOKIasunaro| 20080211
OUT 上 講談社文庫 き 32-3
posted with amazlet on 07.12.09
桐野 夏生
講談社 (2002/06)
売り上げランキング: 4446
講談社 (2002/06)
売り上げランキング: 4446
■桐野夏生
ああ、これはそういう話だったのか……。
半分を過ぎたあたりから自分の長い間の思い込みが実はこの話の導入部にしか過ぎなかったことに気がついて呆然としながら読んでいたのだが後半から終盤にかけての描写にはずしんずしんと衝撃を受けまくりだった。
単行本の刊行は1997年7月と奥付にあるからもう10年も前のことになるのか。話題作であり傑作と評判が高かったから読まなくても「弁当工場でパートする主婦が死体をバラバラにする話」だというのは耳に入ってきた。桐野夏生が巧い作家だというのは聞いていたし、非常に気にはなった。しかし、テーマがグロ過ぎる。トマス・ハリスが書くグロは読めても、日本の、平凡な家庭の主婦が陰惨な犯罪を犯すに至るその背景を想像しただけでじっとりとしたものが見えて気が滅入る。
そこに巧くて面白いと保証つきの小説があるけれどもテーマが自分好みじゃないからどうにも手が出ない。
これは私にとって長い間、そういう本だった。
そしてその想像はあながち間違っていたわけでもない。
ただ、違いは「その先」があったことだ。そしてその「先」の解釈、どこに感情を移入して読むかというのは読み手それぞれに任されているんじゃないかと。
本書はクライム・ノベル、犯罪のことを描いたミステリーだけれども、この話で著者が描き出したかったことはそういうわかりやすいセンセーショナルな着物の下に隠れた「人間」のことだ。それも言うなら「女」のことだ。もっと限定してもいい。若くも無く、年寄りでもない、そういう世代の女の生き方・生き様、そういうこと。
もちろん描かれているのはそれだけではないが、それだけでも十分だと私は思う。
ずっと前から頭のほんとの片隅にかすかに引っかかり続けていた小説が(それも話題になったミステリーであるという理由だけで、だ)実はこういうテーマの小説だったとは。
たぶん10年前に読んでも、文庫化された2002年に読んでも、今の私のような解釈はしなかったんじゃないか。「こいつあ凄い犯罪小説だ」とか「佐竹と雅子の異常なこの関係が凄まじい、凄い」とか思うにとどまったんじゃないか。わからんけど。
この小説を手に取ろうと思ったのは些細なきっかけだったのだが、いやはや。
文庫下巻を開いたときに解説者が松浦理恵子とあるのを見て思わず一瞬固まってしまったくらいびっくりしたものだけれど、やっぱ本と人との巡り会いってなんか……、なんかあるんだ。と思わずにはいられない。
和製ミステリー
|HINOKIasunaro| 20071209
■近藤文恵
先日、たまたますごく久しぶりに杉江さんの日記(「帰ってきた炎の日誌」@web本の雑誌http://column.webdokusho.com/koushin/sugie/2007/09/06/190401.php)を覗きに行ったら今度面白いのが出るよと書いてあって、著者は近藤史恵。このひとの作品は数年前(調べたら4年前)にまとめ読みした時期があったが以降読んでいなくって、しかもテーマは自転車モノとある。
うーん杉江さんの推薦書っていつもサッカーとかサッカーとかサッカーとか冒険ものとか。つまりあんまり私の守備範囲じゃないんだけど本屋さんの熱いコメントとかが気になるなあ。
てゆうか近藤史恵、あれから新作とか全然チェックしていなかったんだけど最近はどういう感じなんだろう……。
というのがアタマの隅に引っかかった状態でこないだふっと書店に寄ったらおお出ているではないか。
というわけで読んでみた(前振り長くてすみませんここまで読まなくてもいいくらいです)。
自転車モノと知って「競輪モノ……?」と漠然と考えたりしたがそうじゃなくて自転車ロードレースの世界を描いた小説。
その世界の知識はほぼ無かったが日本ではマイナーなこのスポーツについて丁寧に説明してくれてある。しかもすごく面白そうだ、ということがよくわかる。
フランスが本場で、ヨーロッパではサッカーに次ぐくらいの人気があって、そのルールの性質から「紳士のスポーツ」とされる、らしい。
主人公は陸上から自転車に変わってプロになった青年。自転車ロードレースも駅伝みたいにチーム単位で優勝を争う。もちろん個人の成績も順位が付けられる。
でも駅伝と決定的に違うのは、自転車ロードレースには「アシスト」という立場の選手が必ずいて、そのひとは己の記録とか順位を上げることを目指さずに、ただひたすらサポートすべきエースのために尽くすことが望まれるということだ。そしてアシストの望みもそれと同じ(であるべき)だということだ。
もちろんこれは技術面がどうこうというのもあるけれど性格的なものもあって、エース向きのひともいればアシスト向きのひともいる。エースになりたいけれど実力が伴わずアシスト、というのも多くあるようだ。
このへんの事情から生じるチーム内の人間関係とか駆け引きとかがなかなか興味深い。
んでもってこの話はスポーツ小説だけじゃなくてミステリーでもあるからまあそういう要素も特に後半いろいろ入ってくるのだが正直そのへんはあんまり読んでいて惹かれなくて、無くても良かったくらいにも思えるのだけれどうーんまあこれは純粋に趣味のモンダイだから。
駆け抜ける競技自転車のスピード感そのままに、ぐいぐいぐいぐい引っ張られてあっというまに読んじゃう面白さは抜群だと思う。ことにクックなんか読んだ後だっただけに展開の速さに……(笑)。
しかしあまりにも早過ぎてさくさく読め過ぎてちょっと物足りないというかもう少しチーム内の人間の肉付けを厚くしてくれてもいいんじゃないだろうかとか思わないでもなかった。あと恋愛要素もなんだかあんまりシンパシー感じないというか。
この小説を読み終えて後のある晩ヤフーを開けたら、自転車ロードレースの最高峰みたいなレースである事件が起こっているというニュースが載っていた。思わずクリックして詳細を読んだがうーんなるほど、うーんなるほどねえ。
まあ如何にも杉江さんの好きそうな話ではあったな確かに。
和製ミステリー
|HINOKIasunaro| 20070922

冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)
posted with amazlet on 07.09.01
辻村 深月
講談社 (2007/08/11)
売り上げランキング: 14758
講談社 (2007/08/11)
売り上げランキング: 14758
■辻村深月
正しくは「辻」のしんにょうの点は2つで綾辻行人と同じだそうで、何故ならば辻村さんは綾辻さんの大ファンだからだそうだ。読後調べたらウィキペディアに書いてあった。おーそうなのか。
私はまた森博嗣のファンなのかな、とか読みはじめてすぐに思っちゃった。だって主人公の名前が「辻村深月」と著者のペンネームと同姓同名で、主人公のボーイフレンドの名前が「鷹野博嗣」なんだもの。で、森先生ってメフィスト賞第1回受賞者だし、この作品はメフィスト賞に応募して第31回の受賞作となったものだし。そっかー、深読みかあ。
さてこの作品はノベルスで出た折にしゃむさんが絶賛されていたのでずーっと気になっていたものが文庫化したもの。ノベルスのとき上中下の3冊だったもんでいささかひるんでいたのが文庫だと上下2冊。まあしっかり分厚いのは同じだからちょっと勇気がいったが。
途中で放棄するかもとまず上巻だけ買って読んでみた。
・・・これ上巻最後まで読んで下巻読まずに止められる、ってひとはまずいないんじゃないだろうか。
雪の中に閉じ込められた校舎。
そこに生徒が8人。
……帯をみてうーん密室モノに典型な設定だな、と思ったが実際に読んでいくとびっくり、だって外からは入れるけど中からはドアも窓もびくともせず動かない、従って出られない、携帯も何故か圏外で、固定電話も不通になっている、というんだから。
どんな合理的な説明が付くんだろうか? オカルトなのか? オカルトはあんまり好きじゃないんだよなあ、と危ぶんでいたのだが大丈夫でした、(私には)ちゃんと飲み込める説明が付いていて。まあ精神的な不思議な現象なので、そういう世界は絶対に受け付けない、という方は上巻の途中で読むの止めちゃうと思うけれども。
テーマは「受験」あるいは「受験生」。あの独特の空気がこの小説の底にずうっと流れている。
登場人物は進学校の私立の高校3年生で、出てくる子達みんなそれなりにお勉強の出来る子ばかりで、そりゃそれぞれタイプは違うんだけれども全員のつながりが「クラス委員を務めた仲間」なんだから基本的に優等生。
だから常識では考えられない異常な状況の中でも不必要に暴れたり騒いだりしないで、お行儀良く理性的に状況に対処しようと努力していく。中には時間が進まないのを好都合と解釈して赤本と取り組む猛者もいる。そしてそれを揶揄しない大人な対応の出来るメンバーでもある。この閉じ込められた8人全員が仲良しで、気が合う仲間意識の強い連中だった、ってのも良かったんだろうな。
この「閉じ込められ」事件の2ヶ月前、彼らのクラスメートが校舎から飛び降り自殺した。学園祭の最終日、みんながお祭り騒ぎで楽しんでいる中、死んでしまった。
ところが何故か「閉じ込められた」彼らはその自殺したクラスメートの名前も顔も、それどころか性別すら思い出せない。思い出せないように記憶を封じられている。
自殺したのは誰だったのか?
どうして彼らを選んで閉じ込めてしまったのか?
そしてその目的は?
常にアタマの中の最優先事項の中に「受験」があった日々。
私はもうだーいぶ遠い昔のことになってしまったので(苦笑)、ああもうちょっと勉強しとけばよかったなあ、この話に出てくる子達って偉いなあ、とか思いながら読んでいたのだが、リアルに高校生の受験生の皆さんなんかが読むと結構プレッシャーになるのかな、それとも励みになるのかな。
誰かを好きになったり嫌いになったり、嫌いになった相手を時には故意に傷つけてしまうことも人間だからあると思う、でも相手がそれで死んじゃったら。「まさか死ぬとは思わなかった」と皆が言う、でもどれくらいの苦しさを抱えているかなんてそのひとにしかわからないし、どれくらいの苦しさを越えてしまったらそのひとが壊れてしまうかなんてきっと本人にすらわからない。
8人のそれぞれがそれぞれのいろんなことを抱えて生きている。そしてそれが結構悲しいことつらいことだったりする。
そういうのが書いてあるので章がはじまるとああ今度の子はいったいどんな苦しみがあるんだろうか、と予期して悲しくなりながら読んでしまう。
こういう悲しいピースの集合体の待つ結末がバッド・エンドだったら無茶苦茶救いがないなあ、作者恨むぞ、と思っていたけど大丈夫、それぞれに力強さを感じさせてくれる形でした。
一方的な視点で生きていくことは時にものすごく残酷な結末を生む、だから出来れば時々は第三者の視点を持てることが大切なんだな、と思ったけど18歳やそこらでそういうのってものすごく難しい……いや今でも全然出来てないと思うし。
これがデビュー作で、同姓同名のキャラ作っちゃったわけだけど、彼女は今後の作品にも出てくるのかなあ?
和製ミステリー
|HINOKIasunaro| 20070901
■大崎梢
『配達あかずきん』でデビューし、その成風堂書店シリーズで着々とその才能振りを発揮してくださっている著者の初めてのノン・シリーズもの。
テキストのデータだけPCで見たときはどうかな〜と思っていたのだけれど実際書店で実物を見たらまず装丁が可愛い! 帯の文句などによれば「読後感が嬉しい」そうだ、うーんそれは良いなあ。しかも舞台が「古くて大きなお屋敷」、口絵を見れば由緒正しい日本家屋。
おおおおお。ツボじゃないか!
ということでいそいそと購入し、ほくほくと読んでいった、最近の暑さでともすれば活字の上を目が滑ってストーリーだけ追いそうになるのをできるだけ踏みとどまってじっくりと。
古民家とかアンティーク好きの身にはもう少しその方面の書き込みがあると欲求が満たされたかと思うのだが、ま・視点がまだそういうのに具体的な興味を持てていない小学6年生の女の子だもんなあ。それにこれは骨董屋シリーズとかじゃないし。
なんか、ミステリーとしてよりも、普通小説として女の子が大きな屋敷の古いしきたりの家の中でどういうふうに頑張るか、というのや、家の造形の描写なんかがとっても興味深くて(隠し階段から屋根裏に上がれるなんて、しかも謎の隠し部屋があるなんて、最高じゃございませんこと?)、萌え萌えほわほわ〜と愉しめた。
日常の会話とか表情の追い方が上手くて、(ちょっと弱気な)小学生の女の子ならではの感情の動きとかもすごく懐かしいというか、大人じゃあそういうふうには受け取らないんだけど子どもってそうそう、そういう考え方しちゃうもんだったよねえ、みたいなのが……。
友達とか、叔父叔母従兄弟といった面々の個性の立て方も良くて、なんか気が付くと主人公と一緒の視点に立って息を詰めたり、どきどきしたり、安心したりしてしまっているのだ。
そういうふうにごくほんわかと漂っていたらきっちり「あら、まあ、そうかこれはミステリーでしたね!」というびっくりも味あわせてくれたし。
細かいところまで著者の視線の柔らかさが感じ取れる、とっても感じの良い作品。何度か繰り返して読みたいです。
和製ミステリー
|HINOKIasunaro| 20070826
リンゴォ・キッドの休日 (角川文庫)
posted with amazlet on 07.08.18
矢作 俊彦
角川書店 (2005/05/25)
売り上げランキング: 105770
角川書店 (2005/05/25)
売り上げランキング: 105770
■矢作俊彦
私の矢作俊彦の入口は数年前、『スズキさんの休息と遍歴』が文庫で出た頃に同作でだったわけだが今回'78年7月に単行本が上梓された『リンゴォ』(のハヤカワ→新潮を経て現在は角川で出ている文庫版)を読んで「あああ入口間違えたっ」というか「あーそのせいで余計な回り道を〜」と激しく思った。
去年『ららら科學の子』が文庫化してそれを読んで「な、なんか知らんけどこれってカッコイイじゃないか?」とびっくりしたもんだけど、なぁんだ、そもそも矢作俊彦って30年も前のデビューの年からこんなにぶっちぎりにカッコよかったんじゃないの、知らなかったのヲレが未知だっただけじゃないの、うっわ恥ずかし!
日本人作家で'78年デビューでなんでこんなに完璧にチャンドラー? ハードボイルドの痛めつけられる部分だけが強調されたような小説もある中でこれは……格好良さがもう素ん晴らしい、台詞回し・文章がキれまくって冴えまくっている、いやー、もう、ヒューヒュー! って感じで。日本人作家で「格好良い小説」書いてくれるひとって私の趣味では首ひとつ抜けて村上春樹かなって思ってたけど、矢作さんが同時期からいたんだねえ……!
正直『スズキさん』がいまひとつピンと来なかったからそこから離れちゃったのが失敗の元だった、やっぱ何作か読んでみなくちゃ駄目だなあ。
2篇収録。ジャンルはミステリー。
「リンゴォ・キッドの休日」
神奈川県警捜査一課・二村刑事シリーズ第1弾。
同一の拳銃で殺害されたと見られる高級クラブに勤める女と米軍基地内の桟橋沖に沈んだワーゲンの中で見付かった男。
いろんなしがらみ・力関係が働いている捜査本部から出てくる情報では真実は握り潰されてしまう。そう危ぶんだ(これも思惑アリの)署長から呼び出された二村は休暇中の「フリーの警官」として暗躍することに……。
ふ、古くない。むしろ新しい。冒頭からカッコイイ。だいたい、「フリーの警官」って何なんだよ! 組織の力なんてハナから頼っちゃいない。それでいて押さえるところはきっちり押さえていて背筋はちっとも揺るがない。仁義もきっちり通してる。ちくしょー、カッコ良過ぎるじゃないか!
時々、昭和53年に書かれた話だということを忘れてしまう。「何故携帯を。あ、無いか」と思ってしまう。もちろん言葉遣いやなんか、明らかに時代が感じられるものも少なくはないのだけれど。横浜横須賀が舞台で、米軍基地との絡みなんかが出てきてそのへんの空気なんかも今とはまた温度が違う感じ、クラブのホステスとか娼婦とかの扱いも時代が感じられるんだけど。
チャンドラーなんかもそうだがハードボイルド系ミステリーってのはトリックがどうとかどんでん返しがどうとかいうのはほとんど無いに等しいんでそういう面ではあまり収穫はないのだがそれを補って余りある、とにかく主人公の言動のひとつひとつが渋いぃぃい。特にハードボイルドファンってわけじゃないんだけど、良いものは良いよなあ、やっぱ。主人公があんまり痛い目に遭わないのも私好みというか、安心して読めるかな。
「陽のあたる大通り」
二村刑事もの第2弾。
依頼人は飛ぶ鳥を落とす勢いの超人気映画女優。彼女は脅迫を受けているという。そして彼女の周りで起こるいろいろなごたごた。彼らは自殺?他殺?事故死?
これも主人公の渋さを存分に味わえる。ミステリとしての面白さもこっちのほうがわかりやすくて面白かったかも。美人女優のキャラクタも洋画のそれを観るかのような洗練度だしね。第1弾に出てくるヒロイン・由も好きだけどね。
その中に一軒、真新しい硝子張りのスナックが目立った。紫がかった反射硝子を路に向け、中は見透せない。
私は、その店へ手を挙げ、おいでおいでをしてやった。
煙草を振り出して、何本かのマッチを背広の打ち合せに隠しながら無駄にしていると、コーデュロイのハンチングを被った男がスナックから出て来た。一目見ほどに大きくはなかった。
「ディック・トレーシーだな」彼は言った。「尾行されるのがあたりまえと覚悟しているんだ」
私の口先でじれていた煙草に、防風ライターの炎を差し出してくれた。
(「リンゴォ・キッドの休日」)
和製ミステリー
|HINOKIasunaro| 20070818
![]() | 新・世界の七不思議 鯨 統一郎 東京創元社 2005-02-24 売り上げランキング : 183671 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
■鯨統一郎
'98年の著者デビュー作『邪馬台国はどこですか?』の姉妹編ということで、うわあ、久しぶりだなあぁ!
日本史のトンデモ解釈で独特の世界をみせてくれた「邪馬台国」に対してこれはタイトルどおり世界の不思議に対するそれ。おおなるほど、って面もあるけれど、だいたいんなアホな、で落としてある。とりあえず鯨統一郎流B級ミステリが愉快。以下タイトル。
「アトランティス大陸の不思議」「ストーンヘンジの謎」「ピラミッドの不思議」「ノアの方舟の不思議」「始皇帝の不思議」「ナスカの地上絵の不思議」「モアイ像の不思議」。
「ストーンヘンジ」の解釈はなかなか興味深かったっていうか、好きですこの世界の見方。ネタバレになっちゃうからどう好きか具体的には書けないけれど。
基本的にバカミスとゆうかトンデモ系なのでこれで「世界の七不思議がわかる」とかいうのではありません。あんまり知識のない私のような人間にも親切に解説してくれてあるので入門にはいいかもしれない。
それにしても静香さんってなんでこんなに女王様なんだっけ。前作に書いてあったっけ。そんな細かい設定まで覚えてないよー!
あと、これは単品でも楽しめるけれども連作なので順番に読んだ方が良いです。
……っていうか最後まで読んでひとつハートマン教授にツッコみたいんだが、「京都に行きたい」んじゃなくて「静香さんと旅行に行きたい」だけとしかどう読んでも解釈できんのだが?
行けよさっさとひとりで京都。
和製ミステリー
|HINOKIasunaro| 20070519





















