2004年に読んだ本のベストテン
1 『家守綺譚』 梨木香歩
新潮社
【純文学】
家守綺譚
文句なしの傑作。
ありがとう梨木香歩。
ありがとう和のこころ。
ありがとうこの世界にひたれる喜び。
これは現実ではありません。
でも、夢でもありません。
ひょっとしたら、視線を変えれば見えてくるかもしれない、もうひとつの世界。
これの続編にあたる『村田エフェンディ滞土録』もオススメです。
【日記より】百年前のものがたり。京都の旧家の留守居を頼まれた小説家氏の、ちょっと不思議な日々が詰められたとても綺麗な御本です。読み終えてしまうのが惜しいような、読み終えた直後からまた最初にもどって読みはじめたくなるような、いつまでもひたっていたくなる美しき世界。それは今はもうどこかにいってしまった世界のような気もするのです。日本画、水墨画の美しさ、ある種泉鏡花的な妖しさも少しだけあったりと、ゆったりと味わえるまさに逸品。

2 『犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎』
コニー・ウィリス
早川書房
【SF、ユーモア】
犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎
SFぅ? 興味ないしぃ。
とか云ってないで古き良き英国が好きな方はまあ騙されたと思って読んでみられたし。
げらげら笑うんじゃないんだけど、なんともおかしい物語。
未来の世界の人間関係のすったもんだもイイ感じ。
そもそも、タイムマシンというのは人類の好奇心の典型的産物じゃないでしょうか。面白いはずです。
うらうらと晴れた日の川遊びそのままの、のんきでおだやかな空気がここにあります。
【日記より】未来のヒトが主人公で、使われるSF的な道具はタイムマシンなんだけど、これをこの小説の世界では「ネット」と云うようです。で、まあなんのかんので『ボートの三人男』の時代に主人公が行ってそこでイロイロある、というお話です。ブルドックのシリルが可愛らしいぞ!!
SFであり、ミステリー的な要素もあり、英国田園小説でもあり、恋愛要素もある。某評論家が「この作品をSF界の住人だけに渡してなるものか!」という主旨の文章を書いていた由、深く深く頷ける傑作である。





3 『夜のピクニック』
恩田陸
新潮社
【現代、エンタメ】
夜のピクニック
青春なんて、恥かしくて語れない。
青春が明るく楽しいなんてまやかしだ。
若さは、苦しい。格好悪い。
――青春ってのは、心の中に、こっそりしまっておくものなのかもしれない。
でも、時々、取り出してみたくなるときも、あったりして。
この小説は現実味は足りないかもしれない。
リアリティに、欠けるのかもしれない。
きれいごとだ、と斬ってすてるひとも、いるでしょうね。
でも、こういうのを「愉しむ」ことってアリなんですよ。
あまり肩に力をいれず、「ふーん」って感じで読んでみてください。
【日記より】この舞台となる高校では修学旅行の代わりとして、全校生徒が丸一日歩く、という行事が行われている。足にマメができるし膝は痛むし、途中から既に「まだ半分かよ」みたいなグロッキーになりつつも、歩く。めいめいが、気の合う友人とつるんで、あれこれ語りながら丸一日を共に過ごすのである。普段の学校生活では話せなかった深い話も出たりする。お互いの新たな面に気付いたりもする。夜になったとたんに元気になるヤツも出てきたりする。
この小説はあらすじでまとめると「なんだ、それだけのこと?」である。だが、最初から最後までじっくり読むと、じわりじわりと心が温かくなり、最後の扉を閉じるのがなんだか惜しくなる。



4 『朝霧』
北村薫
創元推理文庫
【現代ミステリー】
朝霧 (創元推理文庫)
読んでいると初心に帰ります。いろんな意味でこのシリーズは私の青春です。
日常の細やかなことまでも、ひとつひとつを着実に、踏みしめて生きている「私」は読んでいるだけで清々しい。
くすりと笑ったり、胸にじんときたり、はああと感心したり。
「私」の社会人デビューです。
社会人になっても「文学」してます。
だって「私」って永遠の文学ヲタクですもの。
その辺の薀蓄なんかぶっとんじゃいますよ。きっと。
【日記より】ご存知「私」シリーズ第5弾。いろんな面白い本、感動する本があるが、読んでいてこういう気持ちにさせられるのは北村薫だけだ。「こういう」のがどういう気持ちなのか、というとまあ……真の文学好きとはこういうもんだ、みたいな、読書していく醍醐味、好奇心を刺激されて文献をあさる醍醐味はまさにこれだ、みたいな、うーん、言葉にすると青臭いんだけど(笑)。


5 『料理人』
ハリー・クレッシング
ハヤカワ文庫
【モダンホラー?】


いったいこの話はどういうジャンルなんだ、どういうオチが待っているんだとつかめないまま夢中で読み終わってしまった。
よくわからないのだけど、面白い。
ページを繰る手を止められない。
読み終わった後もしばし茫然としてしまったりしたのである。
これは一体なんなんだろう?
ねえなんなのこれ?
素直に(ちょっとドキドキしながら様子を確かめつつ)笑っていて、よろしいんですよね?
【日記より】ちょっとだけ、と読み始めたのにあまりの面白さに止められなくなる。
表紙がミステリ調だしサスペンス調の話かと思ったのだが……。)
ほぼ予想通りの展開だったのにもかかわらず、誰も怖がったり不愉快になったりしていない、というのが変わっている。



6 『13階段』
高野和明
講談社文庫
【ミステリ、現代社会】
13階段 (講談社文庫)
粗がないわけじゃないのに、「よく出来ているミステリだなあ」と感心せざるを得ない。
様式美、という言葉を思い出したりさえした。
聞くところによると、専門家ももめた設定もあるらしい。
まあ、それはそれ、これはこれ。
ミステリーは、エンタメだ。
ミステリーは、イキオイだ。
小説は、究極をいえば現実的には有り得なくとも面白ければ、良いのだ。
事件の調書とは違うのだよ、明智君。
【日記より】裏のアラスジをちらりと見る、冤罪の死刑囚の無罪をはらす……うわ、重い!と一瞬棚に戻して立ち去り他を物色するがピンとくるもの無く、やはり気になって再び手にとって冒頭を読んでみるとすんなり世界に入って行けそうだ。
確かに重いテーマで暗い、暗いけど、同時にたまらなく面白い!!
多少文章の視点に揺れがあってまごつきもするが、そんなことは吹き飛ばしてしまう素晴らしい設定・展開・結末!これはまちがいなく傑作だ。



7 『ほぼ日刊イトイ新聞の本』
糸井重里
講談社文庫
【エッセイ?】
ほぼ日刊イトイ新聞の本 (講談社文庫)
2004年はずっと、大河「新選組!」の感想を毎週楽しみに読んでいました。勉強になりました。笑わせてもらいました。
前々から「お噂はかねがね……」のほぼ日。
何気なく手にとったこの本を読んで、まさかこれほどココロ揺さぶられるとは。
やっぱ糸井重里ってただのダジャレオヤジじゃねえな!
伊達にコピーライターの天才の名を欲しいままにしてねぇな、ってなもんだ!
「この道具、かしたろう!」
頭に刻み付けられてるっつーの。
これからも「ほぼ」の精神で。
ゆけゆけごーごー僕らのイトイ!
【日記より】ざっと目通ししたときは正直軽い気持ちで楽しめるエッセイだと思っていたのだが、あらためてしっかり読み込んでいくにつれ、我知らず涙が滲んでしまうくだりが何度もあって、慌ててしまった。
もちろん、この本は泣かす本じゃない。そういうスタンスの本じゃない。でも、Tシャツを受け取ったひとから「ありがとう」メールが何通も送られてきたところだとか、癌爺さん改めガンジーさんの話だとか、……糸井さんらしい、どっか照れたようなクールな視点で淡々と書いてあるんだけど、……いいなあ、いいよなあ、って思っちゃって。



8 『荊の城』
サラ・ウォーターズ
創元推理文庫
【ミステリー、ゴシック】
荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)
ありふれたとっかかりと思うけれども、読ませる。
だいたいの展開は予想できるというか、なんか「世界名作劇場」なんでしょ?と思ってしまう。
だけれども、巧みな話術であっというまにこっちの好奇心を煽り、ページを繰る手を止めさせない。
そして二転三転する面白さ。
お馴染みの設定だからこそ、ハラハラするのです。
ミステリーなのだけど、ミステリーという感じがしない小説。
ゴシックというか耽美というか……独特の雰囲気です。
【日記より】前作『半身』と同じくヴィクトリア朝ロンドンから物語は始まる。泥棒などの元締めをしている育ての親をもつ主人公スウは<紳士>と呼ばれる詐欺師から儲け話を持ちかけられる。それは、田舎の城館に住む世間知らずの女相続人の侍女となって、<紳士>がその娘をたぶらかすのを手伝えという内容。


9 『下妻物語 ヤンキーちゃんとロリータちゃん』
嶽本野ばら
小学館文庫
【エンタメ】
下妻物語―ヤンキーちゃんとロリータちゃん (小学館文庫)
笑った。
ぶっとんだ思考もここまで極めれば芸術である。
言っていることはわかるけど、それにしてももうちょっと世間の目とか常識とかあって普通はそういうふうにはしないよね、みたいなこともある。
自分ではしないけど、ハタで見ている分にはこれほど面白いことはない。
思い込みの激しさは竜虎相打つ。
ビバ、ロリータ&古典的ヤンキー。
喧嘩上等、読書上等、夜呂死苦!
おまけに感動だって、できるんだぜ。
【日記より】冒頭数行目にある、「いきなしアカデミックでご免あそばせ。頭の悪い人、暫く我慢して下さいね」なんて一文を読んだトキには、もう、「来た来た来たあ!!」って感じでガッツポーズものでしたよ!
「女の友情」しかもそれが「古典的ヤンキーとロリータ」の間に、というので俄然、興味をもったんであるが、注目すべきはこの小説の語り手こと、ロリータ少女・桃子のキャラクター。読む前は、可愛いお洋服大好きの甘っちょろい少女、かと予想していたのだが、いやいやいやいや(激しい否定)。甘いどころか、今時、ここまでしっかりしたアイデンティティーの確立した、主義主張のしっかりできる、頭のよいお嬢さんがおられるものでしょうか。



10 『神の火』
高村薫
新潮文庫
【現代社会小説】
神の火〈上〉 (新潮文庫)
それを言っちゃあおしまいよ、なのかも知れないのだが、高村薫の小説を読んでいるとよく「何故そんなことを苦労してしなければならないのだ」という展開にぶつかる。
そこに説明はないのだけれど、あえて言うならそれが彼らのポリシーなのだろう。
よくわからない情熱で彼らは実に緻密な計画を立て、着実にそれを実行し、ひたすら突き進んで行く。
まるで彼らは「このへんでもうええんちゃうの」
と諦めることを知らないかのようだ。
作中に出てくる青年、良もやはり同じように物凄い真面目さで小説を読んでいる。そこに娯楽という要素は入り込めない様子だ。
いったい現代の人間の、どれほどの者がこんな思いで読書をしているというのだろうか。
そもそも何故、人間は小説を読むのだろう。
何故現代の人間は、活字から離れて行くのだろう。
【日記より】要するに原子力は脅威であり、政治的に様々な力が動く材料だということでスパイが絡んでくる、そのへんの丁々発止書いてあるのがこの小説なんだと思うけど、それにしてもこれ、文庫化が平成7年で、書かれている世界はまだ米ソの冷戦が終わっていない、つまりソビエトが存在するそれなんですよね。でも一方で今現在のニュースでもまだ残っている問題、《北》の核問題が扱われていたりして、「世界は動いてるけど、動いてないところは動いてないなあ」というか、なんというか。


特別賞 『すてきな絵本たのしい童話』
向井元子
中公文庫
【絵本紹介エッセイ】


この文庫本をきっかけに、児童書・絵本の世界にちょっと意識が向いた。頭で考えるよりは、絵本というのは大人向けのものが多いような気がした。
村上春樹の挿画で馴染んでいた佐々木マキの絵本の世界にかなりハマった。
絵本や児童書は子どものために書かれたものである。
だけどそれを書いているのはほとんどが大人である。
大人が次の世代の大人のためにどんなメッセージを書いているか、ということはやっぱり面白いのだ。
時々、「子どもだと思ってナメないでよね」ってのもあるんですけどね。
【日記より】著者が何者か知らずに、ただ店頭で見かけてパラパラやったときに中身がこういう種類の本にありがちな「己へのセンチメンタル」を感じさせないある意味クールな感じだったし、純粋に面白そうだったので購入した。実際読んでみたけど期待通り。向井さんの視点は難しくなく甘すぎもせず。大人になってから子ども達に読んでやっての経験を元に書いてあるからのようだ。


特別賞 『読者は踊る』
斎藤美奈子 
文春文庫
【書評】
読者は踊る (文春文庫)
読むまでも斎藤さんのことが気になっていました。
読み終わったら、もっと斎藤さんのことが気になるようになりました。
毒があるんですけど、それってあえて盛ってある毒のような。
そしてそれにはかなりの中毒性があるような。
実はけっこうナイーブなひとなんじゃないかな、という気が最近はする。
編集者は、企画は、斎藤さんにぶった斬りを、罵詈雑言を求めるだろう。
それこそ「読者は踊」らされているのだ。
ここで、あえて斎藤さんが認める、褒める、オススメ本ばかり集めた書評集を出してほしい。
【日記より】「強烈な批判」というイメージがあったが、まあ誉めるよりは皮肉ってるスタンスってのはイメージ通りだったが、感情派ではなく、どうやらかなり理論的なお人らしい。それを安易な言葉でわかりやすく、読みやすく書いてくれてあるようだ。評論なのにこのサービス精神、うーむ、頭のいいひとなんだろうなあ。
ウケやすいタレント本から始まり、放浪旅行記、クラシック、グリム童話、動物本、聖書、死海文書、歴史書に複雑系……とその読書範囲は実に多岐にわたる。凄い。
どこか醒めたような視線をオトナの女性の余裕でもってくるんだ、親しみやすい言葉づかいでもって繰り広げられるサイトー・ロジックはかなり信用できるもののような気がする。
文章としても純粋に面白かった。




振り返って…

今年も我がベストテンは激戦区であった。
やむを得ず選に入れることができなかったが、印象深かった作品を以下に挙げておきたい。

●ローザンのリディア・チンとビル・スミスの待ちに待ったシリーズ第5作『苦い祝宴』が読めた。ついでに全部再読して、やはりこの世界が好きだと感じ入った。

●小川洋子の著作が店頭になくて、ネットや古本屋で探しまくって入手してはひたすら読んだ。駄作?も傑作もあった。久々に「入手の難しい本を探してゲットする喜び」を堪能できた。

●須藤真澄『おさんぽ大王』にハマってそのほかの著作も集めて再読しまくった。ますびさん色に脳内が染まった。出不精なのでココロのお散歩が多かったが。

●パット・マガーの「探せ」シリーズを読んだ。
噂に名高いエリザベス・フェラーズ『私が見たと蝿は言う』を読むことができた。
その他『試行錯誤』をはじめ、多くの有名だけど未読だったミステリを片っ端から読み漁った。まだまだ続ける。

●あさのあつこ『バッテリー』を遅まきながら読んだ。
「1」で感動の嵐となり、これはこれはと思ったが「2」でちょっとガクリ。というわけでベストテン入りは3〜5の出来に託したい。

●アイザック・アシモフ『黒後家蜘蛛の会』シリーズをはじめて読んだ。『われはロボット』や『鋼鉄都市』も読んだ。センス・オブ・ワンダー、センス・オブ・ミステリにひたることができた。

●浅田次郎『蒼穹の昴』が8年待ってようやく文庫になったので読んだ。期待が大きすぎた面なきにしもあらず。初めて読んだ浅田次郎がこれだったとしたら、驚愕し、感動しまくっていただろう。前半は文句なしに最高だった。

総括すると、大雑把な印象としては女性作家と古きよきミステリの名作に親しみつつ、再読で和んだ、というところか。

なお、宮部みゆきの『日暮らし』は出版日付が2005年の元旦となっているので心置きなく「おとりおき」である。

2005年も多くの傑作快作に出会いたいものだ。
年間ベストテン2002-2004 |HINOKIasunaro| 20041231
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桧あすなろ

  • HN: 桧あすなろ
  • 奈良在住



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