蛇行する川のほとり (中公文庫 お 70-1)
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恩田 陸
中央公論新社
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■恩田陸
莓のショートケーキ。
この小説を喩えていうならそんな感じだ。
単にお腹を満たすためだけのエネルギー補給や健康的に栄養を摂取せんがための食事ならば違うものを選べばいい。だがわたしは時々無性に食べたくなるのだ――単価もカロリーも高めで、別に食べなくとも全然困らないむしろダイエット的見地からは我慢した方がベターなその、甘ったるくも美しいふんわりとしたお菓子を。
だからこの小説を読んでリアリティが、必然性が、などとのたまうのは愚の骨頂であるとわかってはいる。いかに甘く、いかに美しく、儚くも輝かしい夢のような世界が構築されているかを堪能し、ゆったりとその空気にひたることこそがこのような小説の愉しみ方なのだから。
恩田陸という作家はいってみれば極上のケーキ職人・パティシエールであり、ジャンルを越えたさまざまな形でわたしを幻想の世界へ連れていってくれるが、この作品は中でも特に甘みを意識してつくられたものだ。一昔前に尾崎翠がいたように、現代には恩田陸がいてくれる。これは、そんな彼女ならではの少女小説(田舎のノスタルジック風)。
純情な高校1年生の主人公、美しくて優秀でみなに憧れられている上級生、中性的でやさしい美少年、刃物のようにとがっている精悍な少年。彼らが、まるで童話に出てくるように美しい川辺の屋敷で夏休みの数日をともに過ごす――完璧だ。そしてその家では昔、未解決の殺人事件があった。
恩田陸はミステリー作家という扱いをされることも多く、この作品もそういう面を兼ねている。バランス面だけでとらえるならばショートケーキの上にのっているほどよい酸味の莓がそれにあたるかと思うのだけれど、それなくしては画竜点睛を欠く――というほどの効果をこの小説においてミステリーが果たしているかどうかは判断が難しいところだ。少女たちの謎めいたささやきなどを裏付ける意味でミステリアスな要素は不可欠だけれども、肝心の事件の中心人物の動機がいささか首をかしげたくなってしまうものだからで、つまりこの小説の疵といえないこともないからだ。
★以下、ネタバレを含みます。未読の方はご注意ください。
文面どおり読み取るとこの母親はまだ幼い自分の娘をわざわざ人殺しに関わらせる(正確にいうと自殺幇助だけど警察に「殺人」と思わせたいがためのトリックだから)けれどもその必然性がどこにあるのか。何故、単なる自殺あるいは失踪ではいけなかったのか。全然わからない。現に娘はそのことをそれ以来ずっと抱え込んで苦しんで生きてこなければならなかった。それだけの負荷を与える、納得できるような説得力をもった理由がちっとも書かれていないのはひどくないか(母が娘に語った理由など理由になっておらん、自己陶酔の寝言・戯言だ)。あえていうなら「それくらいひどい女・悪女であった」ということだが取ってつけたような説明だしそんな設定でもないしなあ。娘が主人公に嘘を云ったという線でも考えてみたのだが、そうすると自動的に出来事の本質も犯人も変わってきて世にも恐ろしい犯罪小説になるのだがこれはそういう作品ではないし、だいたいにおいてそれまでに書かれてきたある人物のキャラクターからしてその言動はあまりにも逸脱し過ぎている。むちゃくちゃ苦しい。
ということは、ということなんだけど。……うーむ。
装画は酒井駒子。なおこの作品は最初ノベルス3冊に分けて4ヶ月おきに順次出版され、後に単行本1冊にまとめられ、文庫1冊に落ち着いた。


大衆小説
|HINOKIasunaro| 20080625












