冬そして夜
冬そして夜 (創元推理文庫 M ロ 3-8)
S.J.ローザン
東京創元社
売り上げランキング: 1377

■S・J・ローザン/翻訳:直良和美
待ってましたー(≧∇≦)ノ彡 のシリーズ第8弾。
今回はビル視点。
交互で語り手が変わるこのシリーズ、何故かビル視点のほうが出来が良いと評判が高い。わたしもどちらかといわれたらそうかなと思うけどでも同性同世代おまけに同じアジア人ということもあってリディア視点も大好きだ。というかこののっぽで決して美男子ではなくて中年でピアノがうまくて実はロマンチストの白人ビル・スミスと、小柄で美人で敏捷性が高くて勝ち気でどんなときも一生懸命でまっすぐな中国系アメリカ人、リディア・チンのコンビが大好きだし、異なる2タイプの視点によって語られるシリーズだからこその魅力というのは決して小さくないと思う。

話の中にごく自然に家族の話が混じるリディアシリーズに対してビルは過去のことや家族のことを語らない。もっと正確にいうと蓋をして鍵をかけて容器も鍵もどこぞに深くうずめておきたいものであるらしく、たまに誰かがそこを掘り返そうとすると逆毛を立てる。堅くて冷たい鎧をかっちりと着込んで動かなくなってしまう。
ビルはリディアを愛しているけれど彼女だってその領域に踏み込むことは――事件の流れの中で致し方なく許されたほんの少しの足の踏み場以外は――許されていないのである。
今回の事件ではそんな孤高のビルの甥っ子の少年がいきなり厄介事を背負って登場する。甥がいたのか、と驚いていると芋蔓式に妹、姪っ子、義弟が登場して最終的には彼の実父との深くて暗くてとんでもない過去まで判明する。

妹の一家が現在暮らす町が今回の舞台なのだが、この町が変わっている。というか知れば知るほど常軌を逸しているので非現実的だと思ったが解説によればこれは実際にアメリカで起きた銃乱射事件の背景が重ねられているのだそうで、つまりこういうコミュニティが存在するということだろう。日本でも田舎に行けば閉鎖的で集団主義的な考え方をする人々というのは決して珍しくないかもしれないが、風土や民族が違うし、この話ではマイナス面ばかりが異様に強調されて描かれていたがそんなに善悪はっきりしているものなのかなあ。だいたい町全体が同じ考え方だというのもなんだか想像しにくいし、まあ権力者がそうなると自動的にその他少数は排除されるということなのか。どのくらいの規模の町なんだろう。

なんにせよビルは妹夫婦にとって悪しき存在、嫌悪の対象で特に義弟とビルは憎み合っているから顔を合わせるたびにすぐにでも殴り合いになりそうな険悪な関係だし(そのへんの理由・分析は小説中に出てくる)、町のひとびとも短気で偉そうでビルに悪意をもって接してくるようなのばっかりだし、みんなひとの話聞かないしフットボールフットボールフットボールばっかり云ってるし(もともとスポーツマンが苦手な上に明らかに意識的に悪者に書いてあるもんでまいった)、なんていうか「理不尽だあ」「みんなクールになろうぜ」と云いたくなる実に不愉快極まりなく精神衛生上良くない話だった。ていうかみんな感情的にすぐエキサイトしすぎ。社会的地位のあるいい年した大人の男ばっかりなのになんでもっとコントロールできないのか怒りを通り越して不思議でしょうがなかった。しかも長いんだ、この話が。

それでも読むのを投げ出させないのはローザンの筆力。次から次へ展開があって変わった人物も出てくるし息抜きも多少あるし何より好奇心が刺激される。サリバン刑事や高校生にしてプロの新聞記者魂をみせるステイシー・フィリップスは魅力的だし、甥っ子は可愛げがあるからやっぱり心配だし、それにシリーズを通しての信頼感と二人への好意があるからね。

この話には23年前にこの町で起きた事件のことも絡んでいることが徐々に明らかになっていくのだけれどおやおやそういえばそういう話をここ3作続けざまに読んでいるなあ。『スリーピング・マーダー』しかり『蛇行する川のほとり』しかり。どれも全然違う味付けだし書かれた時期もばらばらだし読んだわたしだって無作為にたまたま読んだだけなんだけど(本書は待って買ったけど過去が絡んでいるとは読んではじめて知った)。ほんと読書してるとこういう偶然の連鎖ってあるもんだ。岡崎師匠も『古本道場』で似たことをおっしゃっていた。

シリーズの中でもロマンス色が少なくてテーマが重かったので楽しい話とは云いにくいけれど終盤、事件のからくりがわかったときには思わずちょっと興奮してしまった、ああそういうことか――! 全部繋がっているというかある意味伏線だったんだと知るときの霧が晴れる感じはミステリーを読む醍醐味だ。
2003年度MWA最優秀長編賞受賞作。
気になるのは解説の作品リストにこれ以降の原書新作情報がなかったこと。それまで原書では毎年出版されていただけに心配だ。ふたりの関係はまだまだ坂の途中ですぜ!

翻訳ミステリー |HINOKIasunaro| 20080627
書庫内検索
私

桧あすなろ

  • HN: 桧あすなろ
  • 奈良在住



暦
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -
07月 « 2008/08 » 09月


RSS
ホームページ アフィリエイト レンタルサーバー
FC2ブログ 専門学校
TOP PAGE